ソフトマター
「ソフトマター」 は、富士フイルム㈱ が開発した 「超分子」 と呼ばれる、新規化学物質です。「超分子」 は、特殊な分子構造を持っており、たくさんの分子が集合すると、新しい構造体として、単位分子を超えた独自の性能を発揮することができます。
すでに、液晶技術の分野では、この「超分子」が、大活躍しており、それを エンジンオイル に応用したのが、「ソフトマター」 となります。
高分子と「超分子」の違い
「高分子」 とは、分子量の大きい分子 (たくさんの分子が重合・結合している状態) で、英語では、ポリマー と呼ばれています。分子と分子が結合すると、単位分子の性質とは違う、新たな性質へと変化し、代表的なものとして、プラスチック (樹脂) や、合成繊維があげられます。
また、一度結合すると、元の単位分子には、戻ることができません。
対して、「超分子」 は、結合ではなく、たくさんの分子が集合することにより、新しい構造体に変身し、単位分子を超えた 独自の性能を発揮します。また、高分子とは違い、超分子構造を解消して、また元の単位分子に戻れることが、最大の違いとなります。では、この「超分子」が、どのような働きをするか イメージ にて、お伝えしましょう。
運動会で、数十人の子供たちが集まって 「ピラミッド」 を作る 組体操 を 思い出して下さい。もし、この子供たちが、「超分子」 だとすると、「ピラミッド」 が形成された瞬間、子供たちが作る 「ピラミッド」 から、エジプトにあるような、本物の石で できている 「ピラミッド」 へと、大変身する イメージ となります。(元の物質とは、まったく違った物質へと変化します!)
そして、組体操が終了すると、再び 「ピラミッド」 のパーツ である石から人間へと変身し、また、ひとりひとりの子供 (単位分子) に、戻ることができる。それが、「超分子」 の大きなメリットとなります。
「ソフトマター」 の優位性を、人間の身体にたとえるなら、まさに、血液中に存在する抗体と、似た働きをします。
抗体は、血液により循環し、外部からの菌の進入に対して、どんどん、その部分に集まり、菌と戦うように、「ソフトマター」は、エンジン内部に潤滑が厳しい部分が発生すると、そこへ集結し、次から次へと金属表面に絡み付きます。
その後、この凝集体は、単位分子とはまったく別の構造体となり、摩擦係数が非常に低い潤滑膜へと変化し、潤滑が厳しい部分をピンポイントに守ってくれるのです。
では、この「ソフトマター」の潤滑における優位性を詳しく解説しましょう。
まず、「ソフトマター」の単体イラストは、こんな感じとなります。
ポイントは、髭状に伸びた、「手」です。この「手」により、潤滑が厳しくなった箇所にて、「ソフトマター」同士が、どんどん絡み付き、合体していきます。
潤滑領域別に、「ソフトマター」の特性を見てみると…、
流体潤滑領域
油膜がシッカリと形成されている流体潤滑領域では、エンジンオイルにより潤滑が行われていますので、「ソフトマター」は、エンジンオイル内に均一に分散し、浮遊しています。
弾性流体潤滑領域
流体潤滑領域に比べると、油膜が薄くなる、弾性流体潤滑領域でも、エンジンオイルにより潤滑が行われていますので、「ソフトマター」は、エンジンオイル内に浮遊した状態です。
また、「ソフトマター」 は、高分子ではありませんので、エンジンオイルと混ざって、狭い通路でも均一に分散しています。
混合潤滑領域
さらに油膜が薄くなり、一部の金属の接触がはじまる 混合潤滑領域になると、通路がかなり狭くなることから、「ソフトマター」が金属に絡み付きはじめます。すると、その潤滑が厳しくなった箇所に、次々と、他の「ソフトマター」が絡み付いていくのです。
また、「ソフトマター」は、分子内のフリースペースが大きいため、エンジンオイルをスルーさせることができますので、流れを阻害し詰まりを発生させることはありません。
そして、変身!するのです!!
「ソフトマター」が集結し、分子凝集体(超分子構造体)となると、元の単位分子での性格・性質とは別の物になります。
この超分子構造に変化した物質は、耐荷重性能に優れ、粘度・圧力係数が低いため摩擦係数が非常に低く、強力な潤滑性能を発揮します。よって、弾性流体潤滑領域を保持し、混合~境界潤滑領域に移行することを防ぎ、良好な流体潤滑を維持できるのです。
もちろん、エンジンオイルの粒子は、変身後の 「ソフトマター」でも、すり抜けることが可能です。
弾性流体潤滑領域
「ソフトマター」のパワーにより、潤滑の厳しい状況を乗り切ることで、クリアランスが回復し、弾性流体潤滑領域になると、「ソフトマター」は、超分子構造体を解消し、また、元の単一分子に戻ります。
もちろん、単一分子に戻った、「ソフトマター」は、スラッジになることなく、繰り返し、何度でも、潤滑に厳しい部分が発生するたびに、活躍してくれる不死身の物質(新規化学物質)なのです。
また、「ソフトマター」は、炭素、水素、酸素の分子のみから構成されていますので、環境に非常に優しい添加剤です。エコでありながら、高性能な潤滑性能を有する、今までにない、新しいタイプの物質です。